先週は次亜塩素酸水について自験を交えて考察しましたが、今回はハイターなど次亜塩素酸ナトリウムについて触れてみようと思います。
(※両者は異なる物質であり、これまでノロウイルスやインフルエンザウイルス対策に活躍してくれていますが、ウイルス不活化の至適濃度は全く異なりますので注意して下さい。次亜塩素酸水に関する考察はこちら。)
(参考)
また、本項は次亜塩素酸ナトリウムによるウイルス対策を推奨するものではありませんので、その点は最後まで読まれて、ご判断頂けると幸いです。
次亜塩素酸ナトリウムは英語でsodium hypochloriteですが、COVID-19(新型コロナウイルス)とsodium hypochloriteのキーワードでPubmedで検索すると以下の興味深い論文がありました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7132493/
新型コロナウイルスと消毒剤について解説されたReviewです。
すごいスピード感ですね、もうReviewです。ドイツの文献です(Impact factor 3.704)。
本文中では新型コロナウイルスはSARS-CoV-2と表記されています。
まず初めに様々な素材表面上のウイルス活性について提示してあります。
Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020 Mar;104(3):246-251 より引用
次に、ウイルス不活化について消毒剤の濃度について、エタノールやイソプロパノール(2-propanol)、次亜塩素酸ナトリウムなどについて提示してあります。
ここは本項の主題から逸れますので、Firureのみ引用させて頂き、添付することに留めます。
Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020 Mar;104(3):246-251 より引用
エタノールはこれまでエンベロープウイルス(新型コロナウイルスもエンベロープを有するウイルスです)の不活化に関しては70%前後の濃度とされて来ましたが、この文献では78-95%とされています。
(2020年4月20日 追記)
エタノールやイソプロパノールによる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化に関する文献的考察はこちら。現時点では新型コロナウイルスは30%以上の濃度のエタノールで不活化するという結論です。
※エンベロープウイルスはノンエンベロープウイルス(アデノウイルスなど)と異なり、ある一定のエタノール濃度以上であればウイルス不活化の効果は正の相関を示すので、少なくとも78%濃度を保てばよいかと思います。原著論文はまだ未読のため、別の知見があれば追加報告します。上記追記内容によりこの点は否定します(2020年4月20日)。
※ちなみにノンエンベロープウイルスはある一点の濃度を境にウイルス不活化作用が減弱していくとする報告があります。つまり、ノンエンベロープウイルスに対しては濃度が高ければいいというものではないようです。
さて、本項の主題である次亜塩素酸ナトリウム(Sodium hypochlorite)ですが、少なくとも0.21%の濃度がウイルス不活化に必要としてあります。注意点として、その検証を行った研究では新型コロナウイルスそのものを用いて検証しているわけではなく、同じコロナウイルス科のMHV(mouse hepatitis virus)に対する研究です。
では、日常生活の中で次亜塩素酸ナトリウムというとハイターなどが思い浮かびますが、こちらの濃度は一体いくつなのでしょうか?
以下に花王の商品ページを引用させて頂きます。
花王ホームページより引用
このように、次亜塩素酸ナトリウム濃度は表記されていますが、塩素濃度の不安定さから、希釈を行う際の手技や環境などによりバラつきが出るようです。
しかし!
花王ホームページより引用
花王様のホームページにはここまで親切に希釈方法と予想される次亜塩素酸ナトリウム濃度が記載されていました。
つまり、今回紹介したReviewでウイルス不活化に必要とされる次亜塩素酸ナトリウム濃度 0.21%が達成できる可能性の高い希釈方法は、
花王ホームページより引用、一部改変
上記赤枠の方法であると言えそうです。
しかし、次亜塩素酸ナトリウムは次亜塩素酸水と異なり、以下の点に非常に注意が必要です。
花王ホームページより引用
次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリ性であり、人体への影響が強く、皮膚や粘膜などへ直接使用することは想定されていません。
口に入れたり、噴霧して吸い込んでしまうと粘膜損傷や気道粘膜損傷のリスクがあります。
スプレーする行為自体も厳禁と記載されています。
そのため、消毒が必要なドアノブや手すりなど無機物の清掃のみに限定して使用する必要がありそうです。そして使用後は十分な換気を行い、残留塩素を吸い込まないようにしましょう。
また、漂白作用もあるため十分注意して使用しましょう。
個人的な感想としては、ご家庭については消毒剤が完全に枯渇した際のみ、代替案として想定するくらいが安全かと思います。もちろん、普段の使用に関しては普段通りでよいと思います。私もキッチンでお世話になっております。
昨今のコロナウイルス感染対策の一環としてメディアで取り上げられているため、私なりに考察を行いました。
合目的な使用には非常に有用な可能性があり、注意すべき点に十分配慮して、必ず大人が、もしくは大人が監督した状況で使用して頂ければと思います。子供さんだけで希釈をおこなったり、除菌に使用することはいけませんよ。
匂坂正孝 M.D., Ph.D.(医師、医学博士)
(2020年4月17日 追記)
今回の検討について花王株式会社様の消費者相談室に掲載の御許可を申請させて頂きましたところ、早速の御返事と掲載について認めて頂きました。お忙しい中御対応頂きましたこと、ご担当者様には感謝申し上げます。 匂坂正孝 拝