今回は、ウイルス感染対策の際に使用される次亜塩素酸水について考察を行います。

(※次亜塩素酸水次亜塩素酸ナトリウムとは異なります。次亜塩素酸ナトリウムに関する考察はこちら。)

 

 

まず、当院での使用方法を一例として紹介いたします。(2020年4月22日 追記)

 

※無断転載禁

 

 

 

以下に示すように、次亜塩素酸水は適正な濃度で使用した場合、ウイルスを不活化できます。

 

 

         

 

上記からは40 ppm(=mg/kg)の濃度であればノロウイルスやインフルエンザウイルスの感染対策に有効と判断できます。

 

一方で、次亜塩素酸水の残留塩素濃度は時間の経過と共に徐々に減少していく不安定さがあります。

ウイルス対策には十分に濃度の保たれた次亜塩素酸水を使う必要があります。

 

試しにペットボトルに密閉し、紫外線のあたらない保管方法で残留塩素濃度について、pHとの相関関係から検証してみました。当院ではHOSHIZAKI社製次亜塩素酸水を使用しています。

 

精製直後の次亜塩素酸水:pH 2.72 (20.6℃)

 

↓   ペットボトル密閉/紫外線カットの環境下で72時間後

 

pH 3.37 (19.6℃)

 

※pH測定にはSK-620PHⅡ(佐藤計量器製作所)を使用。

 

 

このように、時間と共に酸度は弱くなっていきます。つまり時間経過により残留塩素濃度は低下します。

合計3回ほど試行しましたが、72時間後pH 3.4という平均値が得られました。

 

当院採用の次亜塩素水について、pHと残留塩素濃度には以下のような相関関係があります。

 

ROXという精製器を使用していますので、pHは2.7以下であれば有効塩素濃度が20~60ppmの範囲に収まり、十分なウイルス不活化作用がありそうなことが分かります。

また、ここで20~60ppmと濃度に幅があることも重要で、pHと有効塩素濃度が1対1で決まらないところが塩素の不安定さを表しています。

 

塩素は気化することで溶液中から時間と共に除去されて行きます。

今回検証した次亜塩素酸水も72時間後にはpHが2.7→3.4と強酸性から弱酸性へ酸度が減弱し、精製後72時間後からは十分な残留塩素濃度が得られないことが確認されました。

 

とは言え、今日の除菌用の資材不足の中では、出来るだけウイルス感染のリスクを下げるという観点からは、次亜塩素酸水の活用は考慮してよいと思えます。

 

※安定した消毒剤があればそちらを優先して使用して下さい。

 

そこで、当院では以下のような次亜塩素酸水の使用ルールを設けることにしました。

 

 

参考)

Robin J Slaughter et al. The Clinical Toxicology of Sodium Hypochlorite(Review). Clin Toxicol.2019 May.

Van Den Broucke S, et al. Irritant-induced asthma to hypochlorite in mice due to impairment of the airway barrier. Arch Toxicol. 2018.

Geun Woo Park et al. Evaluation of Liquid- and Fog-Based Application of Sterilox Hypochlorous Acid Solution for Surface Inactivation of Human Norovirus.  Appl Environ Microbiol. 2007 Jul; 73(14): 4463–4468.

 

注意すべき点として、皮膚の常在細菌叢の維持、バリア機能の維持の観点から、皮膚に塗布するものはpH 4~5台のものが良いといくつかの論文で言われています。

 

参考)

・Blaak J,Staib P. The Relation of pH and skin Cleansing. Curr Probl Dermatol. 2018;54:132-142. Impact factor 2.5

Schmid-Wendtner MH, Korting HC. The PH of the skin surface and its impact on the barrier function. Skin Pharmacol Physiol. 2006;19:296-302. Impact factor 1.89

 

ウイルスに接触した手指から眼球結膜や鼻腔粘膜、咽頭粘膜を経由して感染成立する経路を断つためには、pH 2.7以下の強酸性次亜塩素酸水による消毒が必要です。

モノ(手すり、ドアノブ、机、椅子など)の消毒には精製直後の強酸性の次亜塩素酸水が適していると言えます。

 

一方で皮膚に関しては、皮膚表面のウイルス不活化を第一の目的とするか、皮膚のバリア機構を第一とするかで、至適pHが変わってきます。現時点で皮膚からの新型コロナウイルス感染の経路は報告されていないため、ウイルス不活化寄りのpHで手指消毒を行う方が、現環境においては有効と考えられます。

 

そこで、精製後48~72時間後の次亜塩素水であれば手指消毒可能とし、さらに流水で洗い流すことで次亜塩素酸水の皮膚へのダメージを軽減する方針としました。

 

次亜塩素酸水の皮膚消毒に関する文献はもう少し探してみますので、有益な情報があればまたご報告します。

 

今回の結論として、次亜塩素酸水は精製直後のものはドアノブや手すりなど無機物のウイルス不活化には有効であり、2日ほどの交換サイクルでの利用が望ましいと思われました。

アルコール性の市販されている手指消毒薬が不足している場合は手指消毒にも利用可能と判断しますが、注意点として、その際、次亜塩素酸水消毒後に流水で洗い流すことを行って下さい。

 

そして、強酸性の次亜塩素酸水は粘膜(気道粘膜も含む)へのダメージがあるため、直接、噴霧液を吸い込んだり、口にすることは厳禁です(空気中の塩素ガスの環境基準:0.5ppm、EUリスク評価書参照。)。

 

使用目的に応じて正しく次亜塩素酸水を活用することが大事だと思いました。

 

 

 

(追記 2020年4月18日)

インターネット上に弱酸性の次亜塩素酸水を加湿器に入れたり、噴霧する使用方法に関する情報が散見されますが、その多くが、ウイルス対策として有効な濃度である40ppmよりも低濃度の、弱酸性の次亜塩素酸水を紹介しています。

 

リスクとその行為により得られるベネフィット(利益)を考えながらこういった化学薬品は使用することが大事です。

 

この場合、リスクは気道粘膜の損傷で、ベネフィットはウイルスの不活化です。

そのウイルス不活化が十分に行えない行為では、リスクのみを人体に負うこととなります。

 

塩素が空気中に散布されることで、気分が悪くなったり、喉や呼吸器系に異常を感じるような方は商品使用書の指示に従い、使用中止を御検討ください。あくまでご使用になる方の自己判断を尊重いたします。

 

また、本稿は特定の商品を非難するものではなく、市民の皆さんがエビデンスに基づいた安全で有効な化学薬品の使用を行えるように、特に今の非常時、様々な情報が飛び交う中でお役に立てるように作成したものです。

 

 

 

匂坂正孝 M.D., Ph.D. (医師、医学博士)