母の日にちなんで、外来にお花を飾りました。
こんな時だからこそ、心の休憩も必要ですね。
引き続き、SARS-CoV-2に対する抗体反応について勉強していこうと思います。
これまで、ELISA法やイムノクロマト法による抗体検出について文献を読んで来ましたが
その中で得られた知見としては
ELISA法
・ELISA法では抗原としてウイルスのヌクレオカプシドやRBD(receptor binding domain)スパイク蛋白が設定されている。
・ELISA法では上記ウイルス蛋白に対するIgM抗体、IgG抗体は多くの症例で発症から10日以上経ってから検出される。
・ELISA法ではIgM抗体検出感度の問題があり、またIgG抗体検出の特異度の問題もあると思われる。
イムノクロマト法
・様々な企業が新型コロナウイルスに対する迅速抗体検査を開発中であり、その診断精度には現時点では不確実性がある。
・イムノクロマト法では抗原にRBDスパイク蛋白を設定するキットがある。
・新型コロナウイルス以外のウイルスに対して産生された抗体の干渉がどれだけ抑制されているか現時点で不明。
というもので、なかなか獲得免疫について十分な理解が得られていません。
そのため、引き続きPubmedで液性免疫応答の理解に有用であると思われる文献を拾い読みしていこうと思います。
【題名】 Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients of novel coronavirus disease 2019.
【著者】Zhao J, et al.
【Journal】Clin Infect Dis. 2020 Mar 28. doi: 10.1093
<方法>
・173症例のSARS-CoV-2感染患者の血清検体(n=535)に関して総抗体(total antibodies; Ab)、IgM、IgGをELISA法で定量的に解析。(ELISA kits supplied by Beijing Wantai Biological Pharmacy Enterprise Co.,Ltd,)
・総抗体(Ab)の解析には抗原にSARS-CoV-2のRBDスパイク蛋白を設定した ELISA法(サンドイッチ法)。
・IgMの解析には抗原にAbと同様にRBDスパイク蛋白を設定したELISA法(直接吸着法)。
・IgGの解析には抗原にrecombinant nucleoproteinを設定したELISA法(間接法)。
・ELISA法による解析の特異度はAbで99.1%、IgMで98.6%、IgGで99.0%(パンデミック以前の健常者のサンプルで評価)。
<結果>
・1施設の368症例のうち173例(47%)が対象。年齢中央値48歳(35-61歳)、女性が51.4%。
・116例(67%)が武漢滞在歴や来歴あり。そのうち32例(18.5%)が重篤例。
・62症例(35.8%)が回復し退院。2例(1.1%)が死亡。
・総抗体(Ab)は93.1%で陽性化、IgMは82.7%で陽性化、IgGは64.7%で陽性化。
・総抗体とIgMの累積抗体陽性化曲線は発症から約1ヶ月で100%に到達。
Zhao J, et al. Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients of novel coronavirus disease 2019. Clin Infect Dis. 2020 Mar 28. doi: 10.1093 より引用
・総抗体の陽性化までの期間の中央値は11日間、IgM抗体陽性化まで12日間、IgG抗体陽性化まで14日間。
・総抗体の陽性化はIgM、IgG抗体より有意に急速であったが、これは総抗体に対するELISAの方法がサンドイッチ法であったことが感度の差を生んだ可能性がある。そのため、IgM、IgA、IgG抗体の検出にはサンドイッチ法によるELISA解析がより精度の高い解析結果を生むと思われる。
<診断的利用>
・PCR検査ではウイルスRNAの検出は発症から7日以内に最も高い検出率で66.7%(感度)だが、抗体価は発症7日以内では陽性率は38.3%。
・発症から8日目以降では総抗体価の検出感度はRNA検出(PCR検査)を上回り、発症から12日目で90%以上の陽性率となる。
・発症から8-14日の患者検体では総抗体価の検出感度 89.6%、IgM抗体検出感度 73.3%、IgG抗体検出感度 54.1%であり、何れもRNA検出感度を上回る。
・発症から15-39日の期間では総抗体価の検出感度100%、IgM抗体検出感度 94.3%、IgG抗体検出感度 79.8%。一方、RNAはこの期間では検出感度は45.5%。
・抗体価の上昇は必ずしもウイルスRNAの排出と相関せず、十分なウイルス排出能力があるとは言えないかもしれない。
・重症度と強い相関関係を認めた因子は年齢、性別、総抗体価であった。
<考察>
・新型コロナウイルス感染症では総抗体価の上昇が最初に起こり、その後IgM、IgGが上昇する。
・発症後2週間で総抗体価の急速な上昇が起こり、累積陽性率は11日目に50%を超え、39日目には100%に達する。
・総抗体価の陽性化中央値:11日
・IgM抗体価の陽性化中央値:12日
・IgG抗体価の陽性化中央値:14日
・抗体の持続性については本研究では未解明。
との報告でした。
この文献を見る限り、新型コロナウイルス感染症でも既知の液性免疫応答が惹起され、中和抗体の誘導が起こるようですのでまずは一安心しました。
獲得免疫の持続性や抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)の問題について今後の研究結果を待ちたいと思います。
匂坂正孝 M.D., Ph.D.