Cell Pressより発刊されるJournal 「Immunity」 に掲載された文献
では、さすがの精度で検証が行われていましたので御紹介いたします。
概要としては中国のCOVID-19感染者(PCRで確定診断)14症例の血清解析で判明した「中和抗体とウイルス特異的T cellの強い相関関係」についてです。液性免疫、細胞性免疫の両視点で検討してあります。
<方法>
・対象:入院加療を要した中等症以上のCOVID-19感染者14例(Pt 1-14)。何れも核酸検査で陽性。
・コントロール群:Healthy Donor(HD)のうちHD1-3は新型コロナウイルス感染症流行より前の血清。
・HD4-6はCOVID-19患者と密接な関係のある健常者。
・また、negative controlとしてAB donor in the United States(GemCell, CA)(ウイルス感染が無いことを証明されているAB型血清)を使用。
・抗原の精製:ウイルス抗原としてnucleocapsid protein(NP)を90%の精度で精製。その他のウイルス抗原としてRBDスパイク蛋白(S-RBD)とmain proteaseを90%の精度で精製。S-RBDはACE2に結合することで評価対象となって来ている蛋白。
・上記3抗原(NP、S-RBD、main protease)に対するIgM、IgG抗体を血清検体を用いて解析。
うち、main proteaseに対する免疫応答には有意差が認められず除外され、NP、S-RBDに対する抗体価が本文中で検討されています。
<液性免疫に関する結果(Figure 1)>
・IgMは血清を50倍に希釈し、IgGは450倍に希釈して解析。患者9-14の経過観察中の症例ではIgM抗体よりもIgG抗体が明らかに上昇していた。(IgM検出感度<IgG検出感度)
Figure1.
・抗NC IgG、抗S-RBD IgGはコントロールに比べて有意にAUC(area under the curve)に関して高値であった。このIgG抗体価量は、少なくとも退院後2週間は保たれることが示唆される。
Figure1.
(感想)このFigure1.ではIgGの抗体価の上昇は有意差をもって認められ、IgMの抗体価がIgGに比べて上昇しにくいのか、又はIgM抗体の検出感度が低いのかが考えられます。
・また、Figure 1DではIgGイソタイプについて解析がされており、抗NP抗体、抗S-RBD抗体の多くをIgG1イソタイプが占めていました。
(感想)IgG抗体は教科書的には4つのイソタイプに分けられ、IgG1がもっとも血清中に多いとされており、この結果は矛盾しないものでした。ちなみにIgG1は古典経路で補体活性化も誘導でき、貪食細胞との結合も可能ですし、胎盤通過性は高いタイプです。また、血清中の半減期は21日と言われています。
<Pseudovirus particle-based neutralization assayによる評価(Figure 2)>
致死的なウイルスに関して、バイオセーフティレベルの低い施設で中和効果について検証するために用いる解析法。
・中和抗体価とウイルス量には強い相関関係を認めた。
Figure2.
・患者群のうち、退院した患者1,2,4,5,8では高い中和抗体価を認めた。
→抗S-RBD IgG抗体がSARS-CoV-2に対する液性免疫を担っている可能性。
Figure2.
・経過観察中の症例(Pt 9-14)のうち、症例9のみが中和抗体を認めなかった。
・この中和抗体は抗NP IgG抗体ではなく、抗S-RBD IgG抗体であろう(Figure2 D)。
<細胞性免疫に関する結果(Firure 3)>
・血液よりPBMCs(末梢血中の単球)を分離し、フローサイロメトリーで解析。
・経過観察群ではNK細胞の割合が多い傾向にあることが判明(有意差は無し)。
・T細胞の占める割合については健常者(HD)、退院群HD(D-Pt)、経過観察群(F-Pt)で有意差なし。
Figure 3.
(感想)以前読んだ細胞性免疫の文献では感染後期に抑制されていたキラーT cellやNK細胞が回復期に上昇して来るとのことでした。経過観察中の患者群(F-Pt)のNK細胞数の増加は、重症例におけるADCCの可能性を示唆するものでしょうか?
<細胞傷害性T cellに関する解析(Figure 3)>
・ウイルス特異的細胞性免疫応答を調べるため、患者血清より抽出したPBMCsをウイルスペプチド(リコンビナントNP、main protease、S-RBD)で刺激し、発現するIFN-γ(キラーT cellのマーカーとして観察)をELISpotで解析。
・健常者と比べて患者1,2,4,5,8ではNP特異的なT cellが増加し、これらの症例ではSARS-CoV-2に特異的な細胞性免疫が誘導されていたと考えられた。先に示した液性免疫でもこれら患者においては有意な中和抗体価の上昇が認められていた。
・NP特異的なT cellよりS-RBD特異的なT cellの方が細胞数は少ないが、S-RBD特異的な細胞性免疫はより多くの患者で誘導される(健常者でも上昇例がある)。(Firure 3C)
・治療前にリンパ球減少を認めていた症例10ではNP、S-RBD、main proteaseそれぞれに特異的な細胞傷害性T cellの誘導が認められた。症例10は治療中の症例であり、このことから回復した患者の末梢血中にはウイルス特異的な細胞傷害性T cellは保たれないことが示唆された。(Firure 3C)
・NP特異的な細胞傷害性T cellの誘導と中和抗体価の間には有意な相関関係を認めた。(Firure 3D)
Figure 3.
(感想)ウイルス感染病勢との相関関係でみると、S-RBDよりもNP特異的な細胞傷害性T cellが強い相関がありそうですね。
今回の文献が示すように、液性免疫、細胞性免疫の協調により新型コロナウイルス感染症はコントロールされ得るようです。
重症例では上記宿主免疫がどのように破綻しているのか、それとも免疫の過剰応答(NK細胞、ADCC)が組織傷害性を誘導してしまった結果なのか、解明を待ちたいと思います。
匂坂正孝 M.D., Ph.D.