2020年4月21日にアップデートされたCOVID-19小児症例に関するUp To Dateの抄読会を始めます。
引用元:Coronavirus disease 2019 (COVID-19): Considerations in children
- Author:Morven S Edwards, MD
- Literature review current through: Mar 2020. | This topic last updated: Apr 21, 2020.
<疫学>
・システマティックレビュー(2020年1月1日から3月18日の報告)において、COVID-19患者のうち1-5%が小児症例
・この割合は地理的要因、検査や診断基準の変容があれど、各国ほぼ一定(アメリカ、イタリア、韓国、中国)。
・検査陽性例149,760症例のCDCのレポートでは18歳未満が1.7%を占め、そのうち約70%がニューヨーク州の症例であった。
・小児症例の約90%は家庭内やコミュニティー内での感染暴露であった。10%は旅行での感染暴露。
・アメリカにおける年齢分布割合
1歳未満:15%
1-4歳:11%
5-9歳:15%
10-14歳:27%
15-17歳:32%
・母乳移行性について
SARS-CoV-2の母乳移行性は現時点では不明。母からの感染経路として飛沫感染(droplet)は起こり得るため、授乳時のこまめな手指消毒やマスク、フェイスシールドの使用で予防を。
母体の感染がある場合、接触感染を予防するため出来るだけ接触を最小限にし、母体が回復するまでは母乳は搾乳したものや人工乳を母以外の介護者に授乳してもらう。
搾乳は必ず手指消毒や手洗いをしてから行い、搾乳中はマスクを着用する。可能なら搾乳器は感染していない介護者に徹底して消毒してもらう。
妊娠中の子宮内感染についてはUp To Dateの他の項目としてアップされていますので原文はこちら (See “Coronavirus disease 2019 (COVID-19): Pregnancy issues”.)。
<臨床所見>
・症状に関しては小児症例は大人と似ているが、報告によれば少ない傾向にあるとのこと。 [7,8]
・症状の重症度も大人より低いが、重症化例もある。
・2020年4月2日までのCDCレポート(18歳未満の小児、検査で確定診断症例、n=2572)によれば、年齢の中央値 11歳(0-17歳)、57%が男児。
・中国の報告では年齢の中央値 7歳(日齢1-18歳)、男児が若干女児より多かった。
・発熱と咳が最も多い症状。
・アメリカの291例の小児症症例の解析では、
〇発熱(56%)
〇咳(54%)
〇息切れ(13%)
73%の小児が上記3症状のうち少なくとも一つを呈していた。
・呼吸器症状を含むその他の症状を呈さずに発熱だけの小児症例もyoung infant(日齢25;満期産、日齢56;35週の2例)において認められた。[19]
Paret M, et al. SARS-CoV-2 infection(COVID-19) in febrile infants without respiratory distress.
Clin Infect Dis. 2020 Apr 17. pii: ciaa452. doi: 10.1093/cid/ciaa452.
より引用。
・武漢小児病院の報告では、1391例の症例がPCR検査を受け、確定診断された171例(12%)について検討しており、陽性例の16%の症例が無症候性。陽性例の19%が上気道症状、65%が肺炎を呈した。
症状の中で発熱が最も多く、その他の主症状としては咳(49%)、咽頭発赤(46%)が認められた。少なかった症状としては、全身倦怠感、鼻汁、下痢、嘔吐。
しかし、より小規模な研究ではあるが、消化器症状のみを呈した小児例もあるとのこと。
<重症化リスク>
・小児でも重症化例の報告はあるが、多くの小児症例の場合、mildからmoderate。発症より1から2週間で回復する。
・一方で、下記の疾患を有する乳児や小児では重症化するリスクがある。
アメリカのCOVID-19陽性で下記基礎疾患について完全な情報のある345例の小児症例の検討 [7]。
重症化リスクのある基礎疾患
〇中等度から重度の喘息を含む、慢性肺疾患
〇心血管系疾患
〇免疫抑制状態(癌治療に関連するもの、化学療法、放射線療法、移植、高容量ステロイド投与)
〇その他(透析が必要な慢性腎不全、肝不全など)
・中国の2135例の小児のうち、728例が検査でCOVID-19と診断された研究では、約55%がmildまたは無症候性であった。40%はmoderate(臨床症状やレントゲンで肺炎があるも低酸素血症がない群)、5%が重症(呼吸困難、中心性チアノーゼ、低酸素血症を呈する群)、1%未満が致死的(ARDS、呼吸不全、ショック状態を呈する群)であったとのことです。
1歳未満の乳児376例に関しては、約11%が重症から致死的の病態に陥ったとのこと。
・小児と成人症例で呈する症状に差があることについてはまだ謎だが、いくつかの見解がある。
病原微生物に対する免疫応答の差(サイトカインストーム)、呼吸器におけるウイルス干渉:異なるウイルス同志が増殖する際に互いに干渉し合うこと(宿主依存性の増殖のため)。呼吸器におけるACE2受容体の発現性の差。
上記は原著論文と関連文献を和訳、意訳したものです。
新規知見が得られれば、また更新して参ります。
匂坂正孝 M.D., Ph.D.