本日から、SARS-CoV-2に対する免疫応答について、基礎的な研究に関する文献をいくつか紹介してみようと思います。

 

ウイルス感染の制御には細胞傷害性T cellと中和抗体の働きが欠かせませんが、今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫応答はどうなっているのか不可解なことがありますね。

 

そこで、まずは抗腫瘍免疫にも重要な働きを担う細胞傷害性T cellについて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における判明してきた知見を勉強していこうと思います。

 

 

 

題名「Functional exhaustion of antiviral lymphocytes in COVID-19 patients

著者:Meijuan Zheng, et al.Journal:Cell Mol Immunol. 2020 Mar 19 : 1–3. doi: 10.1038/s41423-020-0402-2 [Epub ahead of print] Impact factor 8.213

 

<概要>

・CTL(細胞傷害性T細胞)やNK細胞はウイルス感染症において重要な役割を果たし、感染の進行に応じてCTLの消費が起こるのが一般的だが、今回のSARS-CoV-2に対する免疫応答は?

 

・SARS-CoV-2感染患者においてNK細胞とCD8+T cellの総数の顕著な減少が認められた。

 

・SARS-CoV-2感染患者においてNKG2Aの高発現を認め、NK細胞やCTLの枯渇が認められた。

 

参考)NKG2A:NKG2ファミリー中の抑制性レセプターであり、HLA-Eと結合してNK細胞の細胞傷害性を抑制する(Janeway’s Immunobiology)。

 

・治療により回復した患者ではNKG2Aの発現低下と共に、NK細胞とCD8+T cellの総数の回復を認めた。

 

→つまり、細胞傷害性リンパ球の機能的枯渇(functional exhaustion)はSARS-CoV-2感染によるもの。

 

 

 

<患者検体の免疫学的解析>

・68例のCOVID-19症例のうち、55例はmild disease、13例はsevere disease。年齢の中央値47.13歳(11-84歳)。男性が52.94%。

 

・この症例研究で、好中球数は重症群においてmild群に比べて顕著に上昇を認め、一方リンパ球数は有意に重症群で減少した。

 

・T cell、CD8+T cell数はhealthy control(HC、n=25)に比べてmild群、重症群で有意に減少し、さらに重症群ではmild群に比べても有意に細胞傷害性T cellの枯渇が起こった。

 

・NK細胞についても重症群ではmild群に比べて顕著に減少した。

【Fig.1-a】

Functional exhaustion of antiviral lymphocytes in COVID-19 patients

Meijuan Zheng, et al.Cell Mol Immunol. 2020 Mar 19 : 1–3. より引用

 

 

 

 

そして、宿主の免疫抑制性レセプターであるNKG2Aに関しては、これは慢性ウイルス性感染症においてNK細胞の抑制に関与するが、下記のようにNK細胞においてもCD8+T cellにおいてもSARS-CoV-2感染患者では有意に高発現していた。

【Fig.1-b】

Functional exhaustion of antiviral lymphocytes in COVID-19 patients

Meijuan Zheng, et al.Cell Mol Immunol. 2020 Mar 19 : 1–3. より引用

 

 

つまりNKG2Aを発現するNK細胞、CD8+T cellは機能的なNK細胞、CD8+T cellの枯渇に陥っていた。

 

 

 

 

【Fig.1-c】

 

Functional exhaustion of antiviral lymphocytes in COVID-19 patients

Meijuan Zheng, et al.Cell Mol Immunol. 2020 Mar 19 : 1–3. より引用

 

抗ウイルス活性について、CD107a(細胞障害性CD8+T細胞の脱顆粒マーカーやNK細胞機能活性のマーカーとしても知られる)、IFN-γ、IL-2、TNF-α、グランザイムBについてNK細胞、CD8+T cellの発現を検証。

 

抗ウイルス活性については健常者(青色、HC)に比べてSARS-CoV-2感染患者(赤色)では軒並み低下していた。

 

これらの結果から、COVID-19においては細胞傷害性リンパ球の機能的枯渇が起こり、SARS-CoV-2感染により、宿主の抗ウイルス免疫は感染の早期において抑制されると考えられた。

 

 

 

94.12%の患者はカレトラ®(ロピナビル・リトナビル:抗HIV薬)による治療を受け、7.35%はクロロキンによる治療を受け、IFN治療を併用された患者は64.71%であった。抗生物質の併用は48.53%であった。

治療による細胞傷害性リンパ球数の変化(細胞傷害性T cell、NK細胞を含む)が比較検討された。

 

【Fig.1-d,e】

Functional exhaustion of antiviral lymphocytes in COVID-19 patients

Meijuan Zheng, et al.Cell Mol Immunol. 2020 Mar 19 : 1–3. より引用

 

患者回復期には、5例の内4症例でT cell、NK細胞数は回復し、細胞傷害性T cell(CTL)に関しては5例の内3症例で回復を認めた。治療奏功例ではT cell、CTL、NK細胞数が上昇していた。

 

5例とも、治療後の回復期においてNKG2Aを発現した細胞傷害性T cellとNK細胞の割合は減少した。NKG2Aの発現低下はCOVID-19患者の病勢のコントロールに相関したものと思われた。

 

NKG2Aは新たなcheckpoint blockadeの阻害分子として注目すべきと述べられていました。

NKG2Aをターゲットとしたcheckpoint blockadeによって細胞傷害性リンパ球の機能的枯渇を防ぎ、感染早期にSARS-CoV-2排出を可能とする治療が期待されると結んでありました。

 

 

(感想)

炎症期に免疫抑制性のシグナル(NKG2A)が出現し、回復期にはシグナルが減弱し定常状態へ戻ったものか。過剰な免疫反応を制御するために抑制性シグナルが活性化したものか。この辺りの理解はもう少し深めたいですね。

 

IL-6とCOVID-19の相関についての文献(Detectable Serum SARS-CoV-2 Viral Load (RNAaemia) Is Closely Correlated With Drastically Elevated Interleukin 6 (IL-6) Level in Critically Ill COVID-19 Patientsなど)も今後理解が必要と思われます。

 

また、SARS-CoV-2感染において、type Ⅰ IFNが抑制されるといった文献もあり、今回のように細胞傷害性リンパ球など抗ウイルス因子の減弱が宿主にとって致命的であるのか、一方でCRS(cytokine release syndrome)またはサイトカインストームがCOVID-19重症例で認められるとする報告もあり、免疫応答過剰が組織傷害性の問題なのか、その辺の解釈を明確にするため、引き続き報告されて来る文献に目を通していこうと思います。

 

匂坂正孝 M.D., Ph.D.