前回に引き続きUp To Date ”Coronavirus disease 2019 (COVID-19)”の内容について触れていこうと思います。この頁ではUp To Dateが引用している関連文献も一部解読しながら記載します。

 

引用元:Coronavirus disease 2019 (COVID-19): Epidemiology, virology, clinical features, diagnosis, and prevention

Author:Kenneth McIntosh, MD
Literature review current through: Mar 2020. | This topic last updated: Apr 23, 2020.

 

 

このブログの意義については前項の最初に記していますので、まだの方は”新型コロナウイルス:疫学”も御覧頂けますと幸いです。

 

 

(2020年4月17日追記)

我々のような一般開業医は今回の新型コロナウイルス感染症の流行によって、いきなり最前線の兵士と化しました。

御承知の通り、新型コロナウイルス感染症は無症候性キャリアの存在もあり、一般的な感冒症状と区別できる身体所見上の特徴に乏しく、いつ如何なる時に遭遇するか予想もつきません。

己さえも感染に暴露されていないかは明言できないPhaseに入って来ています。

感染症の専門家でもない我々一兵卒がではどうやってこの危機に対して向き合えばよいでしょうか。

そのために取るべき行動は明らかです。それは現在集積されつつある、医学的にエビデンスレベルの高い有益な情報を理解し、日々の診療に反映させることです。

そのような背景から、まずはUp To Dateの抄読会を始めることにしました。

同時にインターネット上に記録として残そうと思います。

普段の診療にお忙しい医療従事者の皆さまにとってもお役に立つことができれば幸いです。

 

 

 

<重症度>

Up To Date中には中国の文献が紹介されており、これは母集団が72314例(2020年2月11日)でその内①咽頭ぬぐい液のPCR検査で確定診断された群が44672例(62%)、②症状や濃厚接触歴で疑いがあるも検査が受けられなかった症例群が16186例(22%)、③臨床的な診断のみの群が10567例(15%)、④PCR検査で陽性であるも主症状(発熱、乾性咳嗽、全身倦怠感)が無い無症候性群889例(1%)の解析です。以下にFigureを引用します。

 

 

Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)Outbreak in China Summary of a Report of 72314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention. JAMA. 2020 Feb 24. Vol 323.  Impact factor 51.27 より引用

 

 

本文では、①の確定診断群44672例を重症度によって分類しており

 

・中等症群:肺炎無し又は中等度の肺炎→全体の81%

・重症群:呼吸困難、低酸素血症、P/F比<300、画像検査上24-48時間以内に50%以上の肺病変浸潤→14%

・致死的合併症群:呼吸不全、敗血症性ショック and/or 多臓器不全→5%

 

という重症度の分布になっていたそうです。この重症度の分布には②、③、④の症例についての解析が含まれていませんので、もう少し調査がすすめばより詳しい全体像が見えてくると思います。

 

死亡症例は新型コロナウイルス感染と確定診断された群44672例のうち1023例(2.3%)。もっとも重症度の高い致死的合併症群では致死率は49.0%と報告されています。ここまでが中国の報告です。

 

また、イタリアの報告から地域によって重症度や致死性に差があるとも言われています。

 

イタリアの例ではCOVID-19(新型コロナウイルス)が検出された症例の12%と入院が必要な症例のうち16%が集中治療室での管理が必要になったとしています。3月中旬の段階で致死率は7.2%と評価されていました。

 

一方、韓国の報告では3月中旬で致死率は0.9%とあり、地域によって臨床経過に差が生じています。

これは、イタリアでは感染者年齢の中央値が64歳であるのに対し、韓国では感染者年齢中央値が40歳代と若干若いことが関係あることが示唆されていました。

 

<重症化リスク因子>

・心血管系疾患

・糖尿病

・高血圧

・慢性肺疾患

・癌

・慢性腎不全(透析者)

上記疾患の有病者について重症化するリスクが提言されています。

 

CDC(The United States Centers for Disease Control and Prevention)は免疫不全状態や重度の肥満(BMI 40以上)、肝疾患もリスク因子に挙げています。

※2020年4月15日の時点では、CDCのホームページに重症化をより警戒すべき群として、高齢者(65歳以上)、喘息患者重症疾患の有病者(慢性肺疾患、心疾患、抗がん剤治療や喫煙者、骨髄移植や臓器移植による易感染性状態含む)、HIV患者を明記しています。

 

COVID-19感染では高齢者や併存疾患のある人々が重症化しやすく、The New England Journal of Medicineに発表されたワシントン州キング群のとある施設(Facility A)に関連したクラスター発生の事例では

 

Epidemiology of Covid-19 in a Long-Term Care Facility in King County, Washington. N Engl J M. 2020 より引用

 

入所者101例、スタッフ50例、外来者16例がCOVID-19陽性と確認されました。入所者は118人がPCR検査を受け、101例で陽性確認されたとのことです。

入所者のうち54.5%が入院となり、外来者は50.0%が、スタッフは6.0%が入院治療が必要になりました。入所者の平均年齢は83歳で94%に慢性疾患が併存し、致死率は34%であったとの報告です。

 

このような重症化しやすい群を守るための対策が非常に重要なことだと思います。

 

次回は症状について意訳して参ります。

 

匂坂正孝  M.D., Ph.D.