【足に傷が出来た時に、治りにくくなったことはありませんか?】

 

 

 

 

初めまして、日本形成外科学会専門医・医学博士の匂坂(さきさか)正信と申します。

宮崎大学の医学部を卒業後、東京大学の形成外科に入り、その関連施設である杏林大学を中心に、様々な病院で治療を行ってきました。

 

その中で、糖尿病性足潰瘍、重症下肢虚血、褥瘡などの「難治性創傷」といわれる病気は、

東京でさえ専門的に治療が出来る医師が少なく、「これは故郷の熊本では困っている患者さん、医師がたくさんいるのではないか」と思いました。

 

そのため、この分野に特に力を入れて、今まで診療・研究を行い、2021年4月から熊本に戻りました。そして、ご縁があり、「くまじんきょう」で連載企画を担当させていただき、3回に渡り連載させていただきました。

 

くまじんきょうというのは、熊本の透析患者さん向けの雑誌で、

会長の今井さまが自ら編集されています。

 

 

紙面だけではなく、HPのブログという形で広く周知するために、

今回から、くまじんきょうで連載させていただいた内容に加筆し、公開することにしました。

 

 

 

まずは、足にできた傷が治りにくい原因を、ご説明していきます。

傷の治療では、①適切な傷の治療(軟膏、処置の方法)、②傷ができた部位の血流の有無、③免荷(傷にかかる圧力を逃がす)が

3つの大きな柱となります。第1回目の今回は、①について解説します。

 

 

①適切な傷の治療

「壊死した組織やかさぶたが傷についたまま、治療をしていませんか?」

 

感染や挫滅、また血流障害によって出現した、壊死組織などの血流が無い組織を取り除くことが非常に大事です。

なぜかといいますと、血流が届かない組織には、本来ならば血液に乗ってやってきて、細菌と戦ってくれる白血球が到達できず、細菌の温床となってしまうからです。

また、傷は自然に収縮してきて癒合する性質がありますが、壊死組織が介在していると、皮膚と皮膚との癒合を物理的にも邪魔をします。

ある程度は体の細胞が壊死組織を自然に取り除いてくれますが、積極的に取り除くことができれば傷の治りを早くすることができます。

具体的には、壊死組織はハサミやメスで切除したり、軟膏で溶かしながら除去します。これを「デブリードマン」と呼びます。

 

 

傷の治りを妨げる壊死組織を除去したら、今度は軟膏などで治療を進めます。

軟膏には2つの系統があり、「傷の治りを促進させる薬剤」と「感染を制御する薬剤」を組み合わせて治療を行います。

 

傷の治りを促進させる薬剤の代表的なものは、フィブラストスプレーという成長因子が含まれたものです。

成長因子が最も強力に創傷治癒を進めると考えられるため、それが含まれたOASISという医療材料も、私は使用することがあります。

他にもアクトシン軟膏、プロスタンディン軟膏、オルセノン軟膏などがあります。

 

感染を制御する薬剤には主にイソジン系のもの(カデックス軟膏、ユーパスタ、イソジンシュガーパスタ)などがあり、

これらは傷を乾かすのにも利用できるため、滲出液が多量で皮膚がふやけてしまうような傷に特に有効です

。湿った皮膚は感染が広がり易いため、感染を認めている場合は早期に乾燥させる必要があります。

このような、傷から染み出してくる「浸出液の量の調整」は、とても大切なポイントとなります。

また、硬く黒い乾燥した壊死組織が付着している場合は、ゲーベンクリームで壊死組織を溶かしながら治療をします。

ただしこの場合は溶けた組織を定期的に切除してあげる必要があります。

 

 

糖尿病で足の傷を患っていらっしゃる方は、糖尿病性網膜症などによってご自身の足の傷がよく見えず、

また末梢神経障害のために、傷に気がつかない方も多くいらっしゃると思います。

そのため、小さな傷から始まっていても、適切な治療が出来ず、感染をきっかけにかなり大きな傷になってしまう場合もあります。

私はそのようなケースをたくさん経験し、悔しい思いをしてきているため、小さくても足に傷を認めた場合は、最大限の治療を開始する方針にしています。

 

 

それでは、実際の症例の写真で治療を解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の症例は、足の小指の内側が壊死していました。

もともとは小さな傷だったのですが、足の血流障害があり、皮膚に傷を力が無かったため、壊死に陥っていました。循環器内科の先生に下肢血管をカテーテルで広げる治療をお願いし、血流が再開した後に次の手術を行いました。

 

 

 

 

 

壊死に陥った組織や感染した組織がもっと多ければ、肉芽組織を増やした後に、皮膚を植える「植皮術」という手術を行う場合もあります。

 

 

 

このような大きな足底部の傷の場合は、下腿や大腿での切断術になってしまうこともあります。しかしこの方の場合は、踵を温存することができ、歩行機能を残すことができると判断したため、局所陰圧閉鎖療法という治療を組み合わせて肉芽組織の増生を強力に進めた後に、植皮術を行いました。

 

 

 

次の症例は、足背部の潰瘍で、腱の露出を伴う深いものでした。

しっかりと感染制御を行わないと、下腿切断になってしまうリスクを伴う状態です。

入院の上、ベッド上安静に生活を制限し、

歩行は禁止する必要があります。

 

治療内容を解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回解説したような、難治性創傷といわれるものは、

治療に時間がかかりますが、集中的に、専門的な治療を行うことで、

足を温存できる可能性を高めることができます。

 

 

 

次回からは、傷が治りにくい理由の続きで、②傷ができた部位の血流の有無、③免荷(傷にかかる圧力を逃がす)などについて解説していきます。

 

 

 

 

 

 

 

略歴

 

日本形成外科学会専門医・指導医

医学博士

東京大学形成外科 同門会員

杏林大学形成外科 医局員

 

 

2007年 宮崎大学卒業

京都府立医科大学附属病院 初期臨床研修

2009年 東京大学形成外科入局

杏林大学形成外科、専攻医

2012年 国立がん研究センター形成外科、チーフレジデント

2015年 山梨大学形成外科、助教

2017年 杏林大学形成外科、助教(任期)

2019年 静岡済生会総合病院形成外科 科長

2021年 サキサカ病院 形成外科・美容外科

熊本労災病院 心臓血管センター 循環器足壊疽外来(毎週水曜日)